世界に300種類以上もあるバナナ。
毎日食べる人もいる身近なフルーツでありながら、その歴史のほか原産地&品種など、意外と知られていないことが多い果物でもあります。
デザートバナナの祖先種(原種)が自生していたと言われるマレー諸島には様々な品種のバナナが存在し、マレーシアとバナナは密接な関係にあると言えます。
この記事ではバナナの概要と歴史のほか、マレーシアのバナナの品種&特徴について紹介します。
マレーシアでバナナを買うなら、ピサンラスタリ(Pisang Rastali)とピサンブランガン(Pisang Berangan)が特におすすめです。
“バナナの木”じゃない!草本植物のバナナ
バショウ科バショウ属に属するバナナ。
数メートルの高さになる”バナナの木”は、その見た目から木だと思われがちですが、実は木ではなく草本植物になります。
茎に見えるものは仮茎と呼ばれています。
バナナの花は仮茎の先端に咲き、これがバナナの果実になります。
Wikipediaによると、花房のなかには数十個の花指があり、花指1つ1つがバナナに成熟、花房がバナナの房になります。
祖先は2つの原種
バナナには、
- Musa acuminata(ムサ アクミナータ)
- Musa balbisiana(ムサ バルビシアーナ)
…という2つの祖先となる野生種(原種)があります。
それぞれ日本語で、
- ムサ アクミナータ→馬來山芭蕉(マレーヤマバショウ)
- ムサ バルビシアーナ→琉球芭蕉(リュウキュウバショウ)
…と呼ばれています。
今ある栽培品種のバナナのほとんどは、①または②をベースにするもの、および①と②のゲノムを掛け合わせた交雑種(学名:Musa × paradisiaca)になります。
デザートバナナとして生食するものの多くはムサアクミナータ系で、料理に使われることが多い調理バナナは、交雑種またはムサバルビシアーナの遺伝子を持つものになります。
バナナ原産地は?原種と地理的関係
バナナの原産地については諸説ありますが、東南アジアを中心とした熱帯アジアであるという見方が有力です。
黄色く色づけしてあるエリアがマレーシアになります。
ムサアクミナータの原種はマレー諸島を中心に自生していた
Musa acuminata(ムサ アクミナータ)の野生種は、マレー半島を中心とする東南アジアに広く自生していたと言われ、実際にマレー諸島には実に様々なバナナの品種が存在します。
一方、Musa balbisiana(ムサ バルビシアーナ)は、インド北東部など一部の南アジアや、ベトナムを含まないフィリピンなどの東南アジア北部を中心に自生していたと言われる種になります。
バナナが世界へ広がった伝播の歴史
今や世界の熱帯エリアで生産され、グローバルに消費されるバナナ。
バナナの歴史は紀元前(5,000年〜1万年前)と言われるほど古く、栽培化されるようになった交雑種のバナナ(プランテン)は、熱帯アジアからアフリカ、そして中南米など、世界に伝播した…という歴史を持ちます。
アレキサンダー大王のインド侵攻とバナナ
熱帯アジアで栽培化されていたバナナを西洋世界に持ち帰った歴史的人物はアレキサンダー大王(アレクサンドロス3世)。
紀元前326年(327年)、インドへ遠征したアレキサンダー大王はそこでバナナをはじめて目にし、エジプトに送ったと言われています。
大航海時代に中南米など広く世界に伝播した
ヴァスコ・ダ・ガマ、バルトロメウ・ディアス(バーソロミュー・ディアズ)、コロンブス、マゼランなど、歴史の教科書に名を連ねる航海者がいる、15世紀〜17世紀初頭の大航海時代。
ポルトガルやスペインによるアフリカ・アジア・アメリカ大陸への航海が行われた大航海時代もバナナ伝播の歴史と大きく関係しています。
南アフリカのケープタウン(喜望峰)を経由したインド航路を見つけたポルトガルは、その探索のなか西アフリカでバナナにであったと言われています。
また、バナナが中南米に伝播したのも、大航海時代だと考えられています。
バナナの原生地、歴史や伝播については、A Brief Story of Bananasを参考にしています。
また、バナナに興味がある人は、Dan Koeppel(ダン コッペル)さんのBanana: The Fate of the Fruit That Changed the World、翻訳版の邦題:『バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命』を参考にしても良いかもしれません。
バナナの分類とゲノム(遺伝情報)
バナナのゲノム(遺伝情報)は、
- Musa acuminataのAA(Aの遺伝子)
- Musa balbisianaのBB(Bの遺伝子)
…がベースになっています。
東南アジア周辺で自生していた野生バナナは、突然変異により種なしになり、これをもとに栽培化が進み、のちに様々な品種が誕生しました。
祖先種から栽培品種への発展
各々の野生種(Wild)であるAAwとBBwからはじまり、栽培種へと発展していきます。
ただ、AABには生食できる品種もあることから、生食&調理の双方の用途に使われるものがあります。
Musa balbisiana(ムサ バルビシアーナ)系のBBやBBBは、生食しない調理バナナになります。
上記の分類体系は、国際バナナ・プランテン改良ネットワーク(International Network for the Improvement of Banana and Plantain, INIBAP)<現在の組織名称は国際生物多様性センター(Bioversity International)>が公開している資料のBanana Cultivar Names and Synonyms in Southeast Asiaを参考にしています。
バナナの基本情報のほか、東南アジアにおけるバナナの品種分類や品種ごとの類義語、各国の名称など、あらゆる情報が網羅されている文献になります。
マレーシアのバナナの種類(品種)
ここからはマレーシアのバナナについて紹介します。
マレー語やインドネシア語でPisang(ピサン)と呼ばれるバナナ。
マレーシアには、
- Pisang Abu
- Pisang Awak
- Pisang Berangan
- Pisang Cavendish
- Pisang Lemak Manis
- Pisang Mas/Pisang Emas
- Pisang Merah/Pisang Raja Udang
- Pisang Nangka
- Pisang Nipah
- Pisang Raja
- Pisang Rastali
…など、バラエティ豊かな種類(品種)のバナナがあります。
代表的な品種のバナナを分類してみたものがこちら。
マレーシアではデザートバナナのほかに、調理バナナも広く使われているという点が特徴です。
マレーシアのスーパーで販売されていることが多いバナナは、
- Pisang Berangan
- Pisang Mas/Pisang Emas
- Pisang Rastali
- Pisang Cavendish
…あたりで、スーパーのほか露店など、どこでも手に入れやすいバナナになります。
これらのバナナは、インドネシア、フィリピン、タイなどの東南アジア諸国でも同じ品種のものがあり、 類似した呼称であったり、別の名前で呼ばれていますが、この記事ではマレーシアでの名称を主体とし、それぞれの詳細について紹介します。
Pisang Berangan(ピサンブランガン)
- 種:Musa acuminata
- ゲノムタイプ:AA/AAA
- サイズ:10cm〜12cm程度
- 特徴:ほのかな酸味と爽やかな風味
マレーシアのローカルバナナのなかで最もポピュラーなPisang Berangan(ピサンブランガン)。
Pisang Berangan(ピサンブランガン)の最大の特徴は、香りの良さ。
ほのかな酸味に、鼻にふわっと抜ける良い香りを持ちます。
甘みと酸味のバランスが良い、とっても美味しいバナナです。
フィリピンでは、Lakatan(ラカタン)と呼ばれるバナナになります。
Pisang Mas(ピサンマス)
- 種:Musa acuminata
- ゲノムタイプ:AA
- サイズ:8cm〜10cm程度(もう少し大きめのサイズもあり)
- 特徴:ミニサイズ
ミニバナナのPisang Mas(ピサン マス)。
Pisang Emasと表記されることもあり、マレー語のPisang Emasを直訳するとゴールデンバナナで、その名の通り濃い黄色の実と皮を持つバナナになります。
英語ではLady Finger Banana(レディーフィンガーバナナ)やSugar Banana(シュガーバナナ)、Monkey Banana(モンキーバナナ)など複数の呼称があり、日本人にとっては、モンキーバナナという呼び方の方が馴染みがあるかもしれません。
濃厚な甘みを持つPisang Mas。
強い甘みに、クリーミーな食感が特徴のバナナです。
Pisang Masは、非常に薄い皮を持ちます。
Pisang Rastali(ピサンラスタリ)
- 種:Musa × paradisiaca
- ゲノムタイプ:AAB
- サイズ:8cm〜12cm程度
- 特徴:洋梨やりんごのような味
皮も実もやや白っぽい色をしたPisang Rastali(ピサンラスタリ)。
Pisang Rastaliにはほんのりとした酸味があり、どことなくりんごや洋梨を思わせる味を持ちます。
Pisang Masが濃厚な甘みをを持つことに対し、Pisang Rastaliはあっさりとした酸味と甘みがあるところが特徴です。
フィリピンでは、Latundanと呼ばれているバナナになります。
Pisang Cavendish(ピサンキャベンディッシュ)
- 種:Musa acuminata
- ゲノムタイプ:AAA
- サイズ:15〜20cm
- 特徴:世界一般に流通しているバナナ
Pisang Cavendish(ピサンキャベンディッシュ)。
世界的に流通量が最も多いCavendish(キャベンディッシュ)は、キャベンディッシュ亜種(AAA)に属する定番品種のバナナになります。
日本で一般的に流通しているバナナには、色々な商品名がついているものの、基本的な品種はキャベンディッシュです。
栽培品種のバナナは、かつてGros Michel(グロス・ミチェル)という品種が中心であったものの、1960年代のパナマ病流行後にグロス・ミチェルに置き換わって台頭した品種がキャベンディッシュになります。
ただ、TR4という真菌を原因とする新パナマ病が近年問題視されるようになり、キャベンディッシュも安泰ではない…という問題に直面しています。
Pisang Merah(ピサンメラ)
- 種:Musa acuminata
- ゲノムタイプ:AAA
- サイズ:11〜13cm程度
- 特徴:赤い皮にラズベリーを思わせる風味
赤い色の皮を持つレッドバナナのPisang Merah(ピサン メラ)。
Pisang Merahのほか、Pisang Raja Udang(ピサン ラジャ ウダン)やPisang Udang Merah(ピサン ウダン メラ)という呼称もあります。
マレー語のMerah(メラ)は赤、Raja(ラジャ)は王様、Udang(ウダン)は蝦を意味します。
Pisang MerahはPisang Beranganとほぼ同じサイズ感で、キャベンディッシュよりも小ぶりな大きさになります。
完熟すると、ラズベリーのような&花のような味がするところが特徴のユニークな風味を持つバナナです。
フィリピンでは、Morade(モラード)と呼ばれています。
Pisang Tanduk(ピサンタンドッ)
- 種: Musa × paradisiaca(Cooking Plantain)
- ゲノムタイプ:AAB
- サイズ:20〜30cm(これより大きいものもあり)
- 特徴:調理バナナの定番
代表的な調理バナナのPisang Tanduk。
いわゆるPlantain(プランテン/プランテイン)になります。
普通のバナナよりも甘みが少なくて硬いという特徴があり、蒸す・煮る・焼くなど調理した上で食す形が一般的です。
未成熟の時は緑色の皮をしていますが、 成熟度とともに黄色・茶色・黒色へと変化します。
世界にはプランテンを主食にしている国々がありますが、プランテンを蒸したり茹でたりすると、芋のような味と食感になり、なぜ主食として食べられているのか?という理由がわかります。
Pisang Nangka(ピサンナンカ)
- 種:Musa × paradisiaca
- ゲノムタイプ:AAB
- サイズ:16〜18cm程度
- 特徴:ジャックフルーツの香り
ほかのバナナとは一線を画す芳醇さを持つPisang Nangka(ピサンナンカ)。
Nangka(ナンカ)はマレー語でジャックフルーツを意味し、その名の通り、ジャックフルーツの香りを持つバナナになります。
皮を剥くだけで、ジャックフルーツを思わせる香りが漂い、油で揚げるなど調理をすると、その香りはさらに高まります。
Pisang Nangka(ピサンナンカ)は、ピサンゴレンなど調理バナナとして使われることが多いものの、完熟したものをそのまま食べても美味しいです。
Pisang Abu(ピサンアブ)
- 種:Musa × paradisiaca
- ゲノムタイプ:ABB
- サイズ:8cm〜12cm程度
- 特徴:角ばった形状
Pisang Abu(ピサンアブ)も調理バナナに分類され、ピサンゴレンに使われることが多いバナナになります。
Pisang Abu(ピサンアブ)の特徴はその形で、角ばった形状をしています。
皮は厚めで、油で揚げると甘みが増し、トロトロ食感になります。
揚げバナナのピサンゴレンに使われることが多いバナナ
マレーシアで定番のバナナを使ったストリートスナックのPisang Goreng(ピサンゴレン)。
ピサンゴレンに使うバナナには、
- Pisang Raja【AAB】
- Pisang Tanduk【AAB】
- Pisang Nanka【AAB】
- Pisang Abu【ABB】
- Pisang Awak【AABB】
- Pisang Nipah(Pisang Abu Nipah)【BBB】
…などがあり、AABなどの交雑種が多く使われています。
ピサンゴレンに人気のバナナ
ピサンゴレンに使うバナナは、お店によって多少異なりますが、マレーシアで高い人気を誇るものはPisang Raja(ピサンラジャ)。
「バナナの王様」という意味を持つPisang Raja(ピサンラジャ)は、揚げた時に強い甘みを持ちます。
マレーシアで食べるならどのバナナがおすすめ?
生食用のデザートバナナとしては、Pisang Berangan、Pisang Rastali、Pisang Mas、Pisang Raja Udang(Pisang Merah)がおすすめです。
個人的なおすすめめはピサンラスタリ。
キャベンディッシュにはない酸味があって、とても美味しいです。
マレーシアのどこで購入する?
マレーシアの色々な場所で購入できるバナナですが、調理バナナはスーパーでは購入できないものも多くあります。(例えば、スーパーでPisang Tandukを販売していることがあっても、Pisang Nangka、Pisang Abu、Pisang Awakはないなど)
色々な品種のバナナを購入したい場合、クアラルンプールならChow Kitなど大きめの市場に足を運ぶ形がおすすめです。
バナナの葉も多用するマレーシア
最後に、バナナの葉(バナナリーフ)についても簡単に触れます。
マレー語でDaun Pisang(ダウン ピサン)と呼ばれるバナナの葉。
バナナの葉もマレーシアの食生活のなかで大いに活用されています。
例えば…
…など。
お皿のように使ったり、包装紙代わりに包んだり、クッキングシートのように使うなど実用的なものでありつつ、バナナの葉が持つ良い香りを料理に与えてくれる優れた素材です。
まとめ
日本にも小笠原諸島や沖縄&奄美大島産の島バナナというユニークな品種があるものの、スーパーで購入するバナナは、フィリピン、台湾、エクアドル産のキャベンディッシュがほとんどになります。
世界には実に様々な品種のバナナがあり、マレーシアをはじめとする東南アジア諸国では、バラエティ豊かなバナナを気軽に楽しむことができるので、現地を訪問した際には、日本ではなかなか口にできないものを試してみる形がおすすめです。
以上、バナナの概要とマレーシアのバナナの種類のついての紹介でした!