ペナンの世界遺産エリアにおいて、圧倒的存在感を放つブルーマンション。
「東洋のロックフェラー」と称される中国出身の大富豪、Cheong Fatt Tzeにより建立されたその色鮮やかなインディゴブルーの建物はペナンを訪れる多くの人々を魅了しています。
ペナンのブルーマンションの概要
正式名称はCheong Fatt Tze Mansion(チョンファッツィー マンション)。
その外観から、通称Blue Mansion(ブルーマンション)と呼ばれています。
中国南部の伝統建築をベースにした折衷スタイルの建築物
ブルーマンションは中国南部の伝統建築様式をベースに、所々に西洋の建築エッセンスを取り込んだ折衷スタイルの建築物になっています。
中央にあるメインの建物を挟むように左右にサイドウィングがあり、敷地内には5つの中庭があります。
インドネシアにある邸宅との関係
インドネシアのメダンにも、5つの中庭を持つブルーマンションと同じ規模の中国建築様式の豪邸があります。
Tjong A Fie Mansionとして知られるその邸宅は、ペナンのブルーマンションをモデルとして建てられたものであると言われ、Cheong Fatt Tzeの親族でありビジネスパートナーである張阿輝(Chang A Fei)の自宅だった場所になります。
ペナンとメダンの邸宅は、中国国外に現存する5つの中庭を持つ折衷スタイルの中国建築様式の邸宅として、その建築物の価値が評価されています。
撮影場所になった映画
- Indochine(1992)
- The Red Kebaya(2006)
- Road to Dawn(2007)
- The Blue Mansion(2009)
- The Ghost Bridge(2017)
- Crazy Rich Asians(2018)
新しいところで言うと、Crazy Rich Asians(クレイジー・リッチ!)。
主人公のレイチェルが、Michelle Yeoh(ミシェル・ヨー)さん演じる恋人ニックの母と対峙する後半のクライマックスとも言えるシーンでブルーマンションが使用されています。
ブルーマンションを訪れた著名人
マハティール首相をはじめとした政治家のほか、ペナン生まれの著名人であるJimmy Choo(ジミーチュウ)氏やTan Twan Eng氏、そのほか多くのセレブリティがブルーマンションを訪れています。
Tan Twan Eng(陳團英)さんはThe Garden of Evening Mists(夕霧花園)の著者であり、阿部寛さんが出演されている映画が話題になりました。
Cheong Fatt Tze(チョンファッツィー)について
豪邸の主人(あるじ)がどんな人物であったのか?
これを把握することも、ブルーマンションについて理解を深める上で非常に重要であるため、建物について触れる前に邸宅を建立した人物、Cheong Fatt Tzeについてさらっと紹介します。
1840年に中国広東省の大埔で客家(ハッカ)の家庭に生まれたCheong Fatt Tze(チョンファッツィー)。
漢字表記は張弼士。
張弼士を北京語ベースの発音にするとZhang Bishiになるため、説明書きの中にはZhang Bishiという表現が使われていることもあります。
実業家として頭角を表したのち、政治家としてもキャリアを広げた人物です。
中国から南洋へ
1851年の太平天国の乱、1856年に勃発したアロー戦争(第二次アヘン戦争)により、中国国内の社会情勢が不安定になったことを受け、チョンファッツィーは10代半ばで故郷の中国を離れ、南洋に移り住みます。
「東洋のロックフェラー」という異名を持つチョンファッツィーですが、裕福な家庭に生まれたわけではなく、幼少期から働かざるを得ない環境で育ちました。
そんな彼は中国を離れたあと、インドネシアのジャカルタで働きはじめ、やがて貿易業で着々と富を築きあげます。
ジャカルタからメダンに移ったのち、ペナンをビジネスの拠点としたのは1886年以降のことです。
中国を代表するワインメーカーの張裕
創業1892年、中国を代表する山東省煙臺市に本部を構えるワインメーカーの張裕(Changyu)。
Cheong Fatt Tzeは張裕を創業した人物でもあり、中国初のヴィンヤードを作りました。
歴史的人物との交流
歴史的人物とは孫文。
中華民国が建国される辛亥革命前、孫文はペナン島に何度か足を運び、現地に数ヶ月滞在しました。
チョンファッツィーは同じ客家系である孫文がペナンに亡命した際にシェルターを与え、政治活動の金銭的な支援もしていました。
また、孫文は山東省煙臺市にある張裕(Changyu)にも招かれています。
様々な社会貢献
1904年には東南アジアにおける初の中華系学校であるChung Hwa Confucian High Schoolをペナンに作っています。
また、ペナンの極楽寺(Kek Lok Si Temple)の主要な寄付者としても知られています。
ブルーマンションの歴史
チョンファッツィーがペナンを商業の拠点にした19世紀後半に建立されたブルーマンション。
中央に位置するメインの建物は商業の場として使われたほか、チョンファッツィーやその家族が暮らす場所や祖先を祀る場所として使用されていました。
チョンファッツィーが寵愛した7番目の妻の家
チョンファッツィーに加え、マンションで暮らしていた主要人物がTan Tay Poh。
8人いたチョンファッツィーの7番目の夫人で、寵愛を一身に受けていた人物です。
Cheong Fatt Tze没後 -荒廃化へ-
1916年にチョンファッツィーが亡くなったのちは、家族や親族が暮らしていましたが、適切な修繕が加えられず、次第に荒廃化します。
1989年にチョンファッツィーの最後の息子が亡くなったことを受け、1990年になると豪邸が売りに出されます。
邸宅を取り壊して新たな土地の開発を考えるデベロッパーたちが目をつけるものの、歴史的遺産の保全を推進する人々で構成された地元の団体がブルーマンションを購入、修繕活動に取り掛かります。
ブルーマンション購入に手をあげた人々のうち、キーパーソンとなるのがマレーシア出身のLaurence Loh(ローレンス・ロー)さんです。
ブルーマンションとLaurence Loh
ブルーマンションがデベロッパーの手に渡り取り壊されてしまうことを危惧し、いち早く行動を起こしたのが現在のオーナーである建築家のLaurence Loh(ローレンス・ロー)さん。
修復プロジェクトの指揮を取り、6年以上という月日をかけてブルーマンションを当時の状態に戻しました。
修復のための科学的分析力や職人による修復技術や手法などが高い評価を受け、ブルーマンションはUNESCO(ユネスコ)のHeritage Awards(UNESCO 2000 Asia-Pacific Awards for Cultural Heritage Conservation)でMost Excellent Projectに選ばれているほか、数々の賞を受賞しています。
ブルーマンションと風水・東洋の折衷
チョンファッツィーが邸宅を建立した19世紀後半にペナンで人気があった建築スタイルはアングロ・インディアン様式。
しかしながら、Cheong Fatt Tzeが愛したのは中国の建築様式であったことから、折衷スタイルでありながらもベースは中国建築になっています。
福建省から職人を呼び寄せ、風水の巨匠を招いて自宅の設計をしました。
風水の要素
メインホールから風水の要素が満載になっています。
左右対称に並べられた椅子やテーブル、そして向かい合う鏡。
これらは風水の考えに基づくものになります。
メインホールにはマザーオブパール(真珠層)を使った家具が設置されています。
中央に位置する中庭、セントラルコートヤード(Central Courtyard)。
風や水の流れ、そして「気(Qi)」の流れが集まる風水的な中央にあたる場所になり、セントラルコートヤードは風水の要素である水・金・木・火・土を取り入れた造りになっています。
Crazy Rich Asiansの麻雀のシーンで使われた場所でもあり、人気の撮影スポットになっています。
中庭は吹き抜けの造りになっていることから、雨が降ると「床が水浸しになるのでは?」と疑問に感じることがあるかもしれません。
ここにも風水の要素が取り入れられています。
雨はお金の象徴であり、雨が降ることで家の中に「お金」が溢れる状態になる
…こんな理由から吹き抜けの造りになっています。
ブルーマンションのガイドさんの説明によると、ブルーマンションの正面入口は海に面し、建物の後方は山に面する位置にあり、ここにも風水的な観点が取り入れられています。
風の流れの良さに加え、後方に山があることは「保護」を意味するそうです。
西洋の要素
邸宅を建築するにあたり、最高の素材を使うことにこだわったチョンファッツィーは、遠くはスコットランドのGlasgow(グラスゴー)から資材を取り寄せました。
ブルーマンションの至るところに西洋のエッセンスを見つけることができます。
アール・ヌーヴォー様式のステンドグラス。
天井から吊るされたランプ。
ブルーマンション内にある展示物
2階エリアに様々な展示物があります。
天然染料のインディゴブルー
ブルーマンションの象徴であるインディゴブルー。
現代において「インディゴ」と言うと、合成されたものが主流になっていますが、元々はIndigofera arrectaやIndigofera tinctoriaという植物から採取される世界で最も古くから使用されている天然染料の一つとして知られています。
ブルーマンション建設当時に使われていたインディゴブルーは英国を介しインドから輸入されたもので、天然染料のインディゴに石灰を混ぜて作られています。
修繕工事の時に使われたインディゴの染料や石灰ペーストが展示されています。
Chien Nien
ブルーマンションの屋根に施されている一際目立つ装飾。
Chien Nien(剪粘)と呼ばれる中国南部(福建や潮州)を起源とするアートワークになります。
Chien Nienを英訳するとCut & Pasteという意味になり、その言葉通り陶器の破片をつなぎ合わせて立体化する手法を用いています。
修繕工事中にChien Nienに使われた青・緑・赤のカラフルな陶器が展示されています。
Cheongsam
ブルーマンション内に展示されている数々のCheongsam(チョンサム)。
チョンファッツィーの義理の娘にあたるThong Siew Meeが所有していたものになります。
麻雀や風水の羅盤
豪邸から見つかった麻雀のセットや風水の羅盤、そろばん、タイプライターなども展示されています。
麻雀セットは竹と象牙で作られています。
見学時間(ガイドツアー)の詳細
ホテルの宿泊客ではない一般向けに見学ツアーが毎日実施されています。
ホテル宿泊客のプライバシー保護の観点から、ブルーマンション内全てのエリアの見学ができるわけではなく、メインホール・セントラルコートヤード、2階の展示エリアなど見学エリアが限定されています。
45分間、ガイドさんがしっかりと説明してくれます。
ガイドなしのオーディオツアーを選択することも可能ですが、ブルーマンションのガイドさんの説明がすごく良いのでガイド付きをおすすめします。
ガイドツアー実施時間
- 時間:11:00または15:30(英語解説)
- 料金:RM25(大人)、RM12.5(子供)
上記は2024年7月時点の公式サイトの情報に基づきます。
ツアー予約はブルーマンション公式サイトで手配できるほか、Klook経由でも予約可能です。
宿泊施設(ホテル)
ブルーマンションを存分に楽しみたい人はホテルに滞在する選択肢もあります。
客室は全部で18室、4つのコンセプトに基づいたお部屋から選ぶことができます。
The Bar
ブルーマンション内にあるバーの入口。
セントラルコートヤードにある朝食スペース。
宿泊者用の朝食メニュー。
レストランIndigoで楽しむランチ&ディナー
ブルーマンション内にはIndigo(インディゴ)というレストランもあります。
レストランの予約は公式サイトからオンラインでも受け付けています。
お土産ショップ
お土産ショップもあります。
Batikを使った雑貨類のほか、ポストカードやバッグ類などが販売されています。
お土産ショップは見学ツアーの際に立ち寄ることができます。
ロケーション
住所:14, Leith St, Georgetown, 10200 George Town, Penang
Leith Streetと呼ばれる通りにあります。
位置的にはE&Oホテルの近くにあり、E&Oホテルから徒歩で5分程度です。
また、ブルーマンションの対面にはThe Edisonというホテルがあるほか、隣にはフードコートのレッドガーデンがあります。
まとめ
ペナンを代表する観光スポットのブルーマンション。
…こんな点を学ぶことができる場所になっています。
歴史的価値のある美しい建物を単純に見てまわる…だけでなく、その背後にあるストーリーや歴史、建築物を守ろうとした人々の熱い思いを感じぜすにはいられない、そんな学びの多い場所です。
ペナン観光の際にはぜひ足を運んでみてください。